MEL039xDIARY1.1 by mellow
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[765] 2016/07/12 (Tue)
×××ミステリー小説 『七夕の夜 凶悪事件』
あれは七夕数日前の夜だった。
暑くて寝苦しい夜だった。
その晩俺は、一階の自分の部屋でパソコンに向かってブログを書いてた。
ふと時計を見ると、時間は夜中の0時40分。
そんな真夜中には珍しく、外から物音がした。
車のドアが『バタンバタン』と閉まる音だったり
コソコソした話し声だったり、『ギュギュ』という物音だ。
俺は「何だろ?」と思い
窓から顔を出し、その音の方向を見た。
すると真っ暗闇の中に、2つ人影が。
俺はその人影に向かって『誰だ!!何をやってるんだ!!』と叫んだ。
すると、その人影は疾風のように逃げ去り、闇の中に消えて行った。
俺はとっさにその人影に向かって、携帯のカメラのシャッターを切った。
そしてすぐに外に出たが、もうそこには誰もいない。
誰もいない代わりに
家の階段にとんでもないものが縛りつけてある!!
真っ暗闇の中を目を凝らし
『それ』を確認した俺は愕然とした。
なんと『それ』は七夕飾りが飾られた笹だった!!!
一体誰が!! 一体誰がこんな事を!!
犯人は・・・・・ 犯人は誰なんだ!!!
俺は我に返り、さっきとっさに携帯で撮った写真を見た。
そこには、ハッキリ犯人の姿が写っていた。
しかし、残念な事に犯人の姿は写っていたが、肝心な顔が写っていなかった。
何度も俺はその写真に目を落とした。
なんとなく見覚えがある・・・どこかで見たような気がする・・・
脳の中の記憶の棚を、何度も引き出したが
なかなか思い出せない。
でもこれは貴重な手掛かりだ。
絶対に犯人は俺がこの手で捕まえてみせる。絶対にだ。
そう心に誓った頃
薄っすらと夜が明けて来た。
これから、この壮絶な事件と向き合う覚悟とは裏腹に
綺麗な薄紫色の空だった。
〜第2章〜
朝になり、改めて七夕飾りを見ると
犯人に結び付くような手掛かりを何個か発見した。
まず、その笹の根元は水の入ったペットボトルに刺さっていた。
という事は、犯人は植物が好きで、なおかつ植物を大切にして、
植物に詳しい人物という事になる。
その上には、ビニール袋が括り付けてあり
『短冊入り みんなに書いてもらってね』と書いてある。
植物に詳しくて、植物を大切にして、
尚且つ俺だけじゃなく、俺の周りまで巻き込もうとする人物・・・
俺は必死に犯人のプロファイリングを始めた。
そんな俺の頭の中に一片の閃光が走った。
そういえば、以前ウチの玄関に
勝手に門松が置かれてあった事件があった。
あの時も門松が痛まないような工夫がされてあった。
犯人はその時に犯人と同一人物なのだろうか・・・
そんな事を考えながら、その笹を店の前に移動させた。
ここはあえて犯人の要求を飲んでやる。
店先に置いておけば、誰かが短冊に願いを書いて
その笹にぶら下げるかもしれない。
それが犯人への手掛かりに繋がるかもしれない。
そして改めて、その笹にぶら下がってる、沢山の短冊に目をやった。
その短冊に書いてある事こそが、この事件の鍵を握るキーポイントになるはずだ。
俺はその短冊を一つ一つ見て行った。
一枚目は、まさにこの凶悪犯罪にふさわしい、誘拐犯の脅迫状のように
筆跡がバレないように新聞の文字を切り抜いて作られた短冊だった。
『た毛増 商売はん盛! T』
たけぞう しょうばいはんじょう?T・・・?
Tから始まる名前のヤツが犯人・・・?これは大きい手掛かりになるはずだ。
そして、次の短冊。
『一軒家がほしいです♡ ●●●』
名前は女性の名前だ。
『●●●と●●●が長生きできますよーに ●●りん』
こちらも女性の名前。そして長生きを願っているのは、飼ってるペットの名前であろう。
ん?待てよ。
俺が撮った写真だと、犯人は男二人組だった。
でもしかし、間違いなくこの2つの短冊は女性が書いたものだ。
俺は間違っていたのかもしれない。
この事件は男二人組の犯行だと、思い込んでいたが
本当は色んな人間の思惑が複雑に絡み合った、
もっともっと根深い、難事件なのかもしれない。
それにしても、改めて見ると、この笹の葉は手が込んである
これだけの短冊や、飾りを飾るのは容易じゃないだろう。
良く考えたらありがたい話だ・・・・
一瞬、誘拐犯や人質を取った犯人と、被害者が仲良くなってしまう
ストックホルム症候群みないな感情になってしまった。
『目を覚ませ。この凶悪犯罪の犯人を、必ずこの手で捕まえるんだろ?』
そう自分に言い聞かせ、この世間を揺るがす、
凶悪事件の犯人を捕まえるべく、俺は他の短冊にも目を通した。
『結婚できますように・・・中島みゆき』
確かに彼女は独身だ。
『ヒット曲が書けますように 福山雅治』
あんなに売れてても、まだ神頼みするのか。
『誘われる人間になりたい!! 長渕剛』
確かに「剛さん!飲み行きましょう!」って誘いにくい。
『伊豆に別荘が欲しい 舛添要一』
確かに湯河原はもう行きにくいだろう。
『御中元』
どうせなら、もっと違うお中元の方が良かった。
ビールとか、うどんとかは思いつかなかったのだろうか・・・
誰だ!!! 一体犯人は誰なんだ!!!
ここまでの犯人への手掛かりをまとめてみる。
・植物を大切にする人物
・主犯は男2人
・複数の女性が手を貸している
・名前にTがつく
・芸能人になりすますのが上手い
この情報を頼りに、俺は一つの仮説を立て、
犯人と犯行を推理してみた。
おそらく、犯人の一人の男の家に笹を持ち込んだのだろう。
そこで主犯格の男2人が中心となり、
犯行グループ全員で、飾り付けをしたのではないだろうか?
みんなでお酒でも飲みながら、ワイワイ楽しそうに作業して、
特に主犯各の男は、女子がいるもんだから、
得意のモノマネでもしながら、短冊を書き、
鼻の下を伸ばして調子に乗っていたのではないだろうか?
それを裏付ける、
コンビニのレシートまで短冊のように飾ってあった。
誰だ!!! 一体犯人は誰なんだ!!!
絶対に犯人は俺の近くにいるはずなんだ!!
短冊に書かれてた芸能人のモノマネが得意で、
それ以外でも、色んな人のモノマネが出来て
特に美川憲一のモノマネのクオリティが高い男が、間違いなく犯人なんだ!!
そしてその犯人は、絶対に俺の身近にいるはずなんだ!!!!
俺もしょちゅうこの美川憲一のモノマネを見てるはずなんだ!!!!
クソ!!!! ぼんやりと顔は思い浮かぶが
どうしてもハッキリ犯人の本当の顔が思い出せない!!!
でもいつか絶対に、この凶悪事件の犯人を捕まえてやる。
俺はそう固く心に誓って、拳を握りしめた。
強く握り締めすぎて、爪が掌に食い込んで
一筋の血が流れ、それがアスファルトに落ちた。
俺は静かに空を見上げた。
七夕の夜にふさわしい、綺麗な星空だった。
完